toohiiのお一人様がいい

1人が好きな男がいろいろと吐露します。

目が覚めたら駒になっていた。王将となって将棋に似たゲームで戦う。

今回紹介するのは「ダーク・ゾーン」です。

 

作者は貴志祐介さんです。

 

貴志祐介作品は「黒い家」を読んで以来かなり心酔しております。

 

かなりレベルの高い作品を書いていると思うのですが、

この「ダーク・ゾーン」は賛否両論ですね。

 

『ダーク・ゾーンについて』 

主人公はプロの将棋棋士を目指す塚田。

プロになるには年齢制限があり、その期限が迫っているせいで

かなり焦っています。同じような立場のライバル奥本。

 

塚田はダーク・ゾーンで目覚めます。

自分が置かれている状況は理解していません。

そのあたりは貴志作品のひとつである「クリムゾンの迷宮」に似ています。

ただしこちらは異世界

RPGのモンスターのような姿になって、

将棋にも似たゲームの駒になってライバルの奥本と戦うことになります。

 

物語はダーク・ゾーンという異世界での戦いを「局」とし、

現実世界を「断章」とし、それが交互に書かれます。

「第一局」「断章1」「第二局」「断章2」というようにです。

そうやって、徐々に真相に近づいていく構成です。

 

ダーク・ゾーンの世界で塚田は赤の王将です。

他に、一つ目、火蜥蜴、皮翼猿、土土偶、死の手という5つの駒。

それに加えて6体の歩兵と6体DF。

対する奥本は青の王将。聖幼虫、毒蜥蜴、始祖鳥、青銅人、蛇女。

6体の歩兵と6体DF。

将棋と同じようにそれぞれが同じような能力を持っています。

火蜥蜴は火をふき、毒蜥蜴は毒を吐く。

それぞれの駒がどのような能力を持っているかも、塚田には知らされていません。

赤と青が戦い、王将の殺害で勝敗が決まる。

どちらかが四勝した時点ですべてが終わる。

 

駒の役割や使い方は?

このゲーム自体のやり方は?

 

この辺りの事も塚田はゲームをやりながら理解していくことになります。

 

これこそが、この小説の失敗の原因である。

という意見もあります。

ゲームの要素を入れる以上、すべては明らかにされているべき。

でなければ戦術も何もない。

 

ダーク・ゾーンは将棋をもとにしたと著者もいっていますので、

この物語に将棋的な戦い方を求めることはあると思います。

主人公も棋士を目指していますしね。

 

でも、それじゃあ楽しめない。

 

また、戦いが何回も繰り返される。

そこに疲れた。

という意見もあります。

 

でも、それじゃあ楽しめない。

 

実はぼくも初めて読んだときは「は?」でした。

 途中からかなり端折っていい加減に読みました。

 感想は「ああ、疲れた」    で、終わり。

 

ぼくの場合は真相が知りたかった。

この物語の「真相は何だ」とう興味で読み進めました。

 

真相が途中で読めてしまった。

真相がつまらない。

そういう意見もあります。

ミステリーを読むときの読み方ですね。

 

それじゃあ楽しめない。

 

1回読んだだけではぼくも賛否の「否」側でしたね。

でも、2回目で気づきました。

(貴志作品はたいがい2回読んでいる。

ただし、「黒い家」は怖すぎて読めない。)

 

この小説の楽しみ方は単純。

ダーク・ゾーンでのゲームを主人公の目線で見ること。

この駒にはこういう使い方があったのか。

これにはこういう意味があったのか。

追加される要素も、

「聞いてねえよ」と怒るのではなく、受け入れる。

RPGを楽しむように、

ダーク・ゾーンのゲームを純粋に楽しめばいいのです。

(ぼくはRPGはルールをチュートリアルでしっかり理解してから

はじめるのではなく、やりながら理解していく派)

 

そうすると繰り返り返される戦いも、

主人公のゲームへの理解とともに変化していくこともわかり、

飽きることはない。

 

貴志さんが将棋に似たゲームを考えました。

あとのことはそれを成立させるために必要な要素。

 

プロ棋士になりたいが年齢制限がせまっている。

精神的に追い詰められる中で彼はこんなことをしていました。

だからダーク・ゾーンでこんなことになっています。

これらは要素です。

 

そうでなければダーク・ゾーンという世界を作り出した意味がない。

ダーク・ゾーンという異世界のゲームを存分に楽しんでください。

 

 

ダークゾーン

ダークゾーン

  • 作者:貴志 祐介
  • 発売日: 2011/02/11
  • メディア: 単行本
 

 

 おまけ。将棋の世界の厳しい話

これはぼくが職場の先輩から聞いた話です。

先輩は二十歳くらいのころ
将棋に入れ込んだことがあったらしいです。

将棋会館に通っていた。

詳しくは知りませんが、将棋会館はプロ棋士の育成をしているところ。
趣味でやっている人でも、そこに行っているということは
相当に強い。自分のまわりにいる連中にはまず勝ち、
「お前強いな」といわれるレベルではないかと思います。

先輩は更なるレベルアップを求めて将棋会館へ行くようになり、
自分の実力に自信がついてきたころこんなことがあったそうです。

行くと師匠にあたる人から、子供を紹介され、その日はその子供と
将棋を打つことになりました。

聞けば8歳。

こんな子供と・・・。そう思ったそうですが師匠がいうのです。
いうことを聞くしかありません。
よっしゃ。今日はお兄ちゃんが遊んでやろう。
そう思ったそうです。

師匠がいいました。
「飛車角抜きな」

「飛車」「角」といえば攻撃の要。
野球でいえば3番、4番。サッカーでいえばFW。
(合ってます?実はあんまり詳しくない)
日本の若いミュージシャンでいえば、King GnuOfficial髭男dismです。
(たぶん)
それをなしで戦えというのです。

そりゃそうでしょう。
子供相手ですもん。それくらいのハンデ当然です。
「わかりました」
先輩は師匠に返事をしました。

「いや、お前やない」

先輩は師匠の顔とその子供の顔を何度も見返したそうです。
そんな、馬鹿なと・・・。
自分だってそこそこ打てるようになってきた。
それを。
こんな子供と。しかも、その子供が「飛車角抜き」でこの俺と?
信じられん。

が、

対局してすぐにその子供の実力がわかったそうです。

つつつつ、強い。

冷や汗タラタラで一手を考えます。

対する子供は遊び半分。

考えに考えて時間をかけて打った一手を一瞬のうちに返す。

その手がまた鋭い。

子供は飽きてしまって、遊びに行き、先輩が打ったと見ると
戻って来て、パーンとすぐに打って、また遊びに行く。
その繰り返し。
先輩のボロ負けだったそうです。

その話を聞いて、ぼくはそういう子供が名人とかのタイトルをとるような
大物になるんだなと思いました。神童。天才ですよね。

それがあの有名なあの人だよ。ニュースで見たことあるでしょ。
という言葉を待ちました。

ところが。
ところがです。

がいったのは・・・。

そんな子でもプロ棋士になれたかどうか・・・。

え!

タイトルどころかプロ棋士になることすらできなかったかも、なの?
スタート地点にすら立てないの?



それだけプロ棋士になるのは難しいそうです。

ちょっと、ゾッとさえしました。

 

 

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