toohiiのお一人様がいい

1人が好きな男がいろいろと吐露します。

音楽と絵画にインスパイアされた5つの物語 『ライオンハート』

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 本日紹介します小説は恩田陸さんの『ライオンハート』です。

『蜂蜜と遠雷』を読んで以来、恩田陸さんをもっと読まなければ!!!

という気持ちが続いております。

 

今回もまた素晴らしい物語でした。

 

「あとがき」にありますように、

(あとがきがある場合、あとがきから先に読むという方は結構いらっしゃると思います)

この物語は、イギリスのミュージシャン ケイト・ブッシュのセカンド・アルバム

ライオンハート』に刺激を受けたことが根幹にあります。

 

ライオンハート

あのSMAPの曲にも同じタイトルのものがあり、こっちの方が有名かもしれないですね。

「勇敢な心」という意味があるようです。

 

「強い意志」みたいな捉え方もできると思います。

そんな「強い意志」の物語です。

お互いに「強い意志」で結ばれた男女の物語です。

それは世代どころか、時空を越えて繰り返される。

 

恋愛ものなのですが、SFです。

魂だけが時代を越えて、一人の人間の記憶として残り、それを思い出して、

愛する人に会いに行く物語です。そこに歴史も絡んでくる。

多重なおもしろさのある作品でした。

 

5篇の連作短編の形式をとっており、

各章のはじまりには有名絵画が差し込まれています。

 

これは、またあとがきにあることですが、恩田さんがある美術展に行ったさいに、

ある絵を見てインスピレーションを得て、

そこからこの物語を書き始めたという経緯から来るものです。

 

ミュージシャンと画家、この2人が恩田さんの中でスパークして、

新しい物語が生み出される。

この過程が、まず、カッコイイなああと思ってしまいました。

 

では、内容を見ていきましょう。

 

 

 

エアハート嬢の到着

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雨、それとも雪。

が降りしきる中、人々が誰かを待っている様子が描かれた絵画です。

誰を待っているのでしょうか。

それはエアハート。

リンドバーグの快挙に続き、初めての大西洋単独横断飛行をした女性。

そのことからミス・リンデイの愛称がある方です。

 

今だったら“はやぶさ”を待つような気分でしょうか。

 

そんな、人類の快挙という華々しい場面とはまったく不似合いといっていいような人物が登場します。

エドワード。この青年は、父が経営していた貿易会社が倒産。失意の中で父は死に、母も死んでしまった。兄弟はスペイン風邪でとっくに死んでしまっている。

通っていた大学を退学せざるを得なくなり、それどころか膨らんだ負債のために、管財人や取り立て人から逃げ回っている状況。

それにも疲れ果て・・・。

そこに一人の女の子がやって来るのです。

エドワードに会うために。

2人は初対面。ですが。

女の子はここで、彼に会うことができることを知っているのです。

何故か?

 

これはこういう物語なのかと把握するのに少し手間取ります。

でもわかってくれば、それがおもしろさだとも気づきます。

 

時空・時代を越えた物語だけあって、歴史が絡んでくるのですが、

どんな歴史上の出来事が登場するのかという楽しみもあります。

 

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5つある物語の中で、一番よかった物語ですね。

写真がヘタクソなので、魅力がぜんぜん伝わらなくて残念ですが、

だからこそ、ぜひ原作を手にとって、使われている絵画を観て欲しい。

そこから新しい物語を読み始めて欲しい。

 

男は散歩中。雨が降ってきてしまったので大きな木の下で雨宿りをはじめます。

そこに、「失礼」と若い男。

プロイセンと戦ってきた兵士。療養を終えてパリに帰る途中だといいます。

でも、とても療養を終えたようには見えない。

若い男は、戦場での無策を吐露します。

私が生き残っているのが不思議なくらいと。

 

 

 

 

とにかくこの一編を読んだ衝撃はすごかったですね。

何をいっても、うまく伝えられなし、ネタバレになってしまいます。

 

読んだあとは、呆然としてしまって次のページをめくることができませんでした。

 

イヴァンチェッツェの思い出

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 まずは掲載された絵画をよくご覧ください。

人物が描かれ、その横にいるのは無数の燕です。

ジェフリーはそんな夢を見て、目を覚まします。

 

これはあの有名なアルフォンス・ミュシャが描いたもののようです。

(これぞ、ミュシャというものではありませんよね。

 こういうものも描いていたのですね)

 

物語の中では、この絵はマチルダというかつて画家を目指していた女性が、

ミュシャにあこがれて、ずいぶん模写したというエピソードとともに登場します。

 

ジェフリーはそれを見て驚きます。

夢が現実になったような衝撃を覚えたのです。

 

それにしても、この左下の紋章のようなものは何だろう。

ジェフリーはそれが気になります。

 

ああそうか・・・。

と思い出します。

 

「なぜ忘れていたのだろう。

妻を亡くした日にニューヨークでこの絵を見たんだ」

 

恩田陸さんの手腕が唸る一編です。

 

天球のハーモニー

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明るい初秋の宮殿の中庭。

「陛下」

とよばれて、彼女は振り返ります。

 

記憶

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ロンドンから田舎町に引っ越してきた老夫婦。

夫は裏庭に出る扉を何気なく開けた瞬間・・・。

 

と、ここまで読んで来たならば、お決まりのシーンから物語ははじまります。

 

プロムナード

エピローグを飾るプロムナードは、きっかけとなったケイト・ブッシュに少し触れて、

きれいに物語を閉じています。

終わり方がこの物語を象徴しています。

 

今回もまた素晴らしい体験でした。

まだしばらく恩田陸さんを読んでいくことになりそうです。

 

物語とはあまり関係ないですが

 

作中このような文章が出てきます。

歴史を学ぶということは、大きな振り子に似ている。現実に背を向け、

かびくさい過去の出来事を掘り返していたはずなのに、

ふとした拍子に自分が今まさに現代と向き合っていると気付く。

 

ぼくはあまり歴史が好きではありませんでした。皆が戦国時代だ、幕末だといっていることの首をかしげていました。ですが、最近は考えを改めております。

それは上記の引用にあることを感じるようになったからです。

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

今回はこれにて。

ホイじゃ、また。