toohiiのお一人様がいい

1人が好きな男がいろいろと吐露します。

舟を編む(小説)・あらすじや感想など。

本日ご紹介するのは、

舟を編む三浦しをん著です。

 

2012年の本屋大賞を見事受賞された作品です。

さすがは本屋大賞受賞作と、うなる名作でした。

 

 

舟を編む

有名な作品ですから、未読でも

辞書をつくる物語だということは知っていました。

 

その辞書の名は『大渡海』。だいとかい と読みます。

 

辞書は、言葉の海を渡る舟。

茫漠とした大海原のごとき無数にある言葉。

もし辞書がなかったら、我々はその前にたたずむことしかできないだろう。

海を渡るにふさわしい舟を。

『大渡海』にはそんな意味が込められているのです。

 

それがわかるとタイトルのすばらしさもわかります。

舟となる辞書をつくる、編集するのですから、編む。

 

この編む。辞書をつくる過程は言葉一つ一つを丁寧に集め、適切に定義することからはじまります。それはまるで一本一本の糸を編むかのように感じさせます。

 

舟を編む』この短い言葉で辞書づくりを表しているわけです。

 

馬締 光成

まじめみつや。株式会社玄武書房 第一営業部所属。

院卒の入社三年目。27歳。

辞書をつくるという地味な作業にピッタリの名前です。

その何恥じぬ、辞書づくりに向いた男なのです。

彼が主人公ですね。

営業部ですが、ふさわしい男として辞書編集部からスカウトされることから

物語ははじまります。

 

スカウトしたのは荒木。

辞書編集部で辞書づくりひとすじ37年。

だが、定年まであと二ヶ月。

辞書というのはつくるのに手間と年月を要するために、

会社としてはそんなに多くの人材をさけない。

人材不足なんです。

監修として松本という言語学者がいるものの、

編集部は荒木の他は契約社員の四十代の女性・佐々木。

馬締と同じ年の西岡だけなんです。

そしてまた、この西岡という男が地味な辞書づくりにまったくふさわしくないと思えるようなチャラい男なんです。

どうしてここに?他の部署でなんかやらかした?という疑いを持ってしまいます。

 

馬締の住まいは、木造二階建ての下宿・早雲荘だ。

大学入学を気にずっと住んでいる。

他の住人は大家のタケおばあさんのみ。

馬締は1人なのをいいことに、読み終わった本を空いている部屋へ運び、

それで1階の部屋をすべて埋めてしまった。

そんな馬締に大家は文句も言わないどころか、たまにご飯をつくっては

ごちそうしてくれるのだ。

 

そこに、タケおばあさんの孫娘が引っ越して来るのです。

林香具矢。

馬締は香具矢に惚れます。

 

若い人が寄り付かないようなボロアパートに、美しい女性が引っ越してきた。

これって、高橋留美子さんの初期の名作『めぞん一刻』じゃないか。

 

馬締と西岡と香具矢の間で、恋愛コメディ的なノリの物語がはじまるのかな、

と思っていました。

マンガ好きでも知られる、三浦しをんさんがこの漫画を知らないはずはありません。

独特のリズムで心地良く楽しいエッセイも得意な三浦しをんさんですから、

三浦しをん版『めぞん一刻』を見事に書いてみせるだろう。

そう期待していました。

 

でも、そうはなりませんでした。

 

 

ここからは、ネタバレです。

西岡正志

チャラい男で仕事なんか馬鹿にして適当にやっていうかのような男。

馬締をからかい、香具矢を取ろうと邪魔する男。敵役のような役割かと思っていたのですが、そうではありませんでした。

馬締をからかいつつも、面倒見が良いんです。

辞書は好きになれないが、それでも辞書部として荒木や松本に認められようと

彼なりにがんばっているのです。

それでも彼は負けを認めざるを得ませんでした。

馬締の辞書づくりにかける執念にです。

馬締を本当に辞書づくりに向いている男だと認め、

宣伝広告部へ異動の際には自分はいらないから出されたと嘆くのです。

それでも、西岡は最後まで辞書編集部として自分にできることをして

出ていきます。

 

岸辺みどり

玄武書房入社三年。女性向けファッション雑誌「ノーザン・ブラック」にいた

女性が、辞書編集部に異動してきます。

西岡の欠員がやっと補充されたに2,3年後から物語が再会するのかと思ったら、

そうではありませんでした。

なんと13年後から再会です。

『大渡海』はまだ、発売されていない。

 

ええ!!まだ・・・。

辞書づくりとはそれだけ時間がかかる仕事なんですね。

 

その13年経った後でも、辞書編集部のメンバーは全く変わらない。

監修としての松本先生。元編集部の荒木。契約社員の佐々木。

正社員は馬締だけ。

そしてひたすらに地味な作業を続けているだけなのです。

 

感想

構成がすばらいいと感じますね。

辞書づくりは、10年以上もかかる手間と時間のかかる作業。

海外では自国語の辞書を、国王の勅許で設立された大学や、

ときの権力者が主導して編纂することも多い。

国家の威信をかけてなされるほどの重要な仕事です。

それだけ大切で偉大な仕事なのです。

 

ですが、

言葉一つ一つを丁寧に精査し、吟味する作業はひたすら地味です。

 

これでは物語としてはおもしろくない。

だからそこに恋愛を入れる。

それに頼らなかったところが秀逸です。

恋愛はあるのですが、ちょっとです。盛り上がりなくあっさりしています。

 

それをするのではなく視点を変えていく。

馬締にはじまり、西岡から見る馬締、岸辺から見る馬締。

一見辞書づくりからかけ離れているようなチャラい男や、

ファッション雑誌を担当していた若い女性を通して、

辞書づくりにを見るわけです。

それによって物語が起伏をもつのです。

 

 終盤、視点のバトンは馬締にまた戻ってきます。

やがて物語は終末へと向かい。

地味だった作業が一変、スポーツの攻防のようなスピード感をもって

ゴールします。

 

辞書づくりに関わったすべての人を祝福して終わります。

 

是非読んでほしいですね。

 

ホイじゃ、また。