バチカン奇跡調査官 鳴るはずのない鐘と青い鳥
今回紹介するのは「バチカン奇跡調査官 ジェヴォーダンの鐘」です。
バチカン奇跡調査官の14作目にあたる作品です。
バチカン奇跡調査官とは、バチカンの神父が世界各地の信者たちから送られてくる奇跡について本当の奇跡かそうではないかを調査する物語です。
主人公は主人公は2人。
平賀・ヨゼフ・庚(ひらが・よぜふ・こう)。日系アメリカ人の神父。
科学者。
ロベルト・ニコラス。イタリア人の神父。
古文書、暗号解読の達人。
奇跡に対して科学者としての知識や、科学的アプローチによって解明する側面。
奇跡が起きた地方に伝わる伝説や、絵画(壁画)、書籍などから解明していく側面。
その地方の歴史なども絡んできます。
ですから、科学好き・謎解き好き・歴史(世界史)好きにも楽しんでもらえる内容になっています。
舞台となる地域が毎作ごとに違いますので、旅行好きにも楽しんでもらえるかもしれないですね。
そして今回はもう一つ。
今回の「ジェヴォーダンの鐘」に関しては、東野圭吾さんが好きな方にも気に入っていただける内容ではないかと思います。
さて、今回の舞台はフランスです。中央高地、ロゼール県。その北部にあるのどかな小村セレ村。丘の牧草地では牛や山羊がのんびりと草を食んでいます。
そこで奇跡が起きます。
実はこのセレ村、800余年前の4月30日にエズーカ山の洞穴で雨宿りをしていた村人の前に、聖母マリアが出現したという伝承が伝わっています。
それ以来そこには聖母像が祀られ村の特別な礼拝堂となっており、毎年4月30日には聖母出現の奇跡を祝い聖歌隊メンバーと神父が山の祠で礼拝を行う決まり。
そこで再び奇跡が起きるのです。
祠には鐘があるのですが、鐘をならすために大事な舌がないのです。
日本の寺の鐘にはゴイイイインンと鳴らすための棒がありますよね。
(棒って・・・。多分ちゃんとした名前あるはずだ。知識が乏しい)
キリスト教の鐘はああいう棒はなく、その代わり鐘の中に舌があって、それを揺らすことで鳴らせるわけです。その肝心の舌がないんですね。
鐘は鳴るからこその意味があり、それが鳴らないとはと神父は嘆くのです。
おまけにこの村には「この鐘が鳴ると奇跡が起こる」という言い伝えまであり、
だったらなおさら奇跡など起こるはずもないと肩を落とすのです。
が。
それが鳴るんですね。でなけりゃ小説がはじまらないよー。
さらに奇跡が起きます。
そこに青い鳥がやってきて聖歌を歌うのです。
セレ村には古くから青い鳥は聖母マリアの化身という伝承があります。
さらに奇跡が起きます。
礼拝に同行していた全盲の少女ファンターヌの目が治ります。
こんなにも奇跡が重なるなんて。
おう。神は本当にいらしゃるのですね。私たちが真に祈りを捧げれば願いを叶えてくれださるのですね。
そうではありません。これは奇跡でありません。
バッサリと解決されます。
何故か。
それはこの小説が「バチカン奇跡調査官」だからです。
今回の奇跡(課題)が提示されたところで舞台はバチカンへ。
主人公の平賀が登場します。
彼は一本の古釘を見つめています。
キリスト教における釘。そう。十字架に貼り付けにされたときにその手足を釘で打ち付けたといわれているその釘。「聖釘(せいてい)」とよばれるそうです。
それが見つかったと送られてきたものです。
平賀はそれを電子顕微鏡で観察。クロムニッケル鋼だと特定します。
クロムニッケル鋼が用いられるようになったのは1890年以降。
つまり偽物です。
こんなことを平賀はずっと続けています。その調査姿勢は「またどうせ偽物でしょ」ではなく「今度こそ本当かもしれない」です。
平賀は信仰心が篤く、奇跡の存在を信じています。本当の奇跡に巡り合いたいからこその調査なのです。
熱中すると寝食を忘れ、食事の必要を感じるとポケットからチョコレートを取り出して、銀紙をむいて食べます。これが彼の食事です。
かの有名な社会学者も食事はチョコレートといっていますので、優秀な方の中にはそういう人がいるのかなと思ってしまいます。
ちなみに、この平賀のチョコレートの記述。これが後々きいてくる場面がありますので楽しみにしておいてください。優れた小説はこんなささいなところに伏線をはっているんですよね。
セレ村での奇跡の報告を平賀とロベルトは聞きます。
ただ、平賀は青い鳥が聖母マリアの化身だということに首を傾げます。
ロベルトが深い知識をもってそう解釈するにいたる経緯を説明するのですが、そこを読むだけでも価値があります。ノアの物語と古代シュメールの粘土版。黒い聖母像と古き地母神。禿鷲信仰。
青い鳥といえば、モーリス・メーテルリンク。ぼくは童話だと思っていたのですが、戯曲のようですね。
当然のことながら、モーリス・メーテルリンクの話も出てきます。
セレ村にいくとバーン、バーンという銃声。
この辺りの大地主が狩りが大好きでと地元の神父はうんざりした顔でいいます。
全盲だったのに奇跡で治ったという少女ファンターヌは、実は三年前に目が見えなくなった。その原因はバズブというカラスの魔物で、目を盗まれたからだという姉。
森にはバズブだけでなく、狼男や精霊もいる。精霊に会ったことがあるという人までいて、その一人がファンターヌ。
バーン、バーンと今日も銃声が鳴り響く。
アルビジョワ十字軍。
十字軍といえばキリスト教の聖地エルサレムをイスラム教徒の手から奪還する目的のものが有名ですが、南フランスで隆盛を極めたキリスト教の異端アルビ派を滅する目的で行われたのがアルビジョワ十字軍なのだそうです。
アルビ派とはそんなに危険な教義を持っていたのでしょうか。
その辺りの事が絡みに絡んで物語は真相へと向かいます。
鳴らないはずの鐘が何故鳴ったのか。
青い鳥の正体は。
そして奇跡よりも大事な悲しくも美しい物語の真相。
何重にも折り重なったエンターテインメント。
是非読んでいただきたい。