あの「グリコ森永事件」をモチーフにした小説『罪の声』
今回紹介する小説は『罪の声』です。作者は塩田武士さん。
この小説はかつて日本で実際に起きた「グリコ森永事件」をモチーフにしています。
お菓子に毒を入れてばらまいたという事件です。
子供が学校から帰って来て親からおこづかいをもらい、おやつのお菓子を買いに行く。
こんなほほえましいことができなくなってしまったという事件です。
その事件を「ギン萬事件」という架空の事件として、
30年経った現在から真相を追うというのがこの物語です。
映像化も決まっているようですね。
気になる方はこちらのブログをどうぞ。
さて本題です。
京都市北部にある「テーラー曽根」。テーラーというのは服の仕立て職人のことです。
そこの2代目である俊也のテーラーとしての丁寧な仕事ぶりからはじまります。
そこに母親からスマホにメールが。
アルバムと写真を持って来て欲しい。
電話台に入っているということで、彼はその一番下の大きな引き出しを開けます。
中は他界した父の遺品がごっそり。
母親に言われたものを探しながら、透明のプラスティックケースに収められたカセットテープと黒革のノートを見つけます。ノートには英文がびっしり。
彼には職人として生涯を閉じた父親と英文が結びつきません。読んでみようかと思いますが早々にあきらめ、かわりにいっしょに入っていたカセットテープを聞いてみることにします。
「ブチッ」という音の後に、幼いころの自分が当時の流行りの歌を歌う声に
思わず笑います。幼くても自分の声だとすぐにわかる。
その後もう一度「ブチッ」と音がして、
「きょうとへむかって、いちごうせんを・・・・・にきろ、ばーすーてーい、じょーなんくーの、べんちの・・・・・」
俊也は不可解なものを感じて再度黒革のノートを見てみます。
英文のページをめくり、最後の方に書かれた日本語の表記。
【ギンガ】
【萬堂】
日本を代表する製菓メーカー。記載されている会社情報。
俊也には思い出されるものがありました。
俊也でなくともこの2社とくれば、日本人ならば思い出すあの事件。
「ギン萬事件」
俊也はパソコンで事件について調べます。
この事件といえば、毒入りのお菓子をばらまいた。
でもそれだけではありませんでした。社長の誘拐、複数の製菓・食品メーカーを恐喝。
そして、
被害企業との接触に、女性や児童の声が入ったテープを使用。
動画サイトを調べると事件を追ったドキュメンタリー番組がアップされいました。
その番組内で恐喝に使用されたとされるテープが流されます。
間違いなくその声は俊也の声でした。
この意味は何なのか。
父親があの事件に関わっていたということか。
それだけではありません。
我が子をその道具として使った・・・?
娘がいる俊也には到底受け入れられません。
自分の子供を犯罪の道具に使うなど。
父とはそんな卑劣な人間だったのだろうか。
俊也は事件を調べる決意をします。
物語にはもう一つの視点があります。
新聞記者の視点です。こちらは曽根俊哉と違って調査のプロ。
大日新聞文化部 阿久津英士。
年末企画の特集として未解決事件を追う。
「ギン萬事件 31年後の真実」
その応援要員として阿久津がよばれます。
嘘情報に翻弄され無駄足を踏み、それを上司になじられと散々な目にあいながらも阿久津は徐々に真相を一つずつつかんでいきます。
30年前に警察が調べつくしたはずなのに、新しい事実が出て来るんですね。
聞き込みをされても警察に真実を話すばかりではないということです。
警察がつかんだ情報すべてが真実ではない。
その理由の一つに関係者を知合いがかばうというのがあります。
その行為自体犯罪に加担しているといえるのですが、そこにそのような意図はない。
今ここで警察に突き出せば、さらに犯罪から抜け出せなくなるかもしれない。
ここで情けをかけてやることで更生するのならという親心です。
やがて阿久津は誰もが気づいていないある事実に気づきます。
対する俊也も様々な人を頼って真実へと近づいていきます。
ですが、その中で新聞記者が「ギン萬事件 」を追っていることを知ります。
プロが追っていることに俊也は怯えます。
プロがその気になれば、自分の声が事件に使われたことがわかってしまう。
それは父親が事件に関わっていたということだけでなく、我が娘も事件に関わった者の家族として扱われることになってしまう。
娘を巻き込んでしまう。
この事件を調べるのはもうやめた方がいいのでは。葛藤が生まれるんですね。
さあ、どうなるのでしょうか。
事件の真相は。
両者は出会うのか。
俊也の家族の運命は。
小説『罪の声』の紹介でした。